2020/05/07
兵庫県立大学自然・環境科学研究所の橋本佳明准教授(兼兵庫県立人と自然の博物館主任研究員)らの研究グループは、天然由来の安全な防虫、殺菌成分である「ワサビ成分(AITC:アリルイソチオシアネート)」が、ヒアリの燻蒸剤として有効であることを明らかにした。
2017年5月に、兵庫県尼崎市と神戸港で中国輸入コンテナから国内初侵入が確認された特定外来生物、ヒアリ。以降、2020年4月時点でその確認・防除事例は、15都道府県(全48件)に広がっており、ヒアリの侵入が内陸部の倉庫などで確認される事例も増加している。
ヒアリの国内定着を未然に防ぐためには、ヒアリが侵入した貨物を内陸部で素早く燻蒸処理する必要があるが、従来、燻蒸に使われてきた化学的な薬剤には健康被害や環境汚染が懸念されるものもあり、特殊な機材や防護マスクなども必要になるため、簡便な方法で、安全に、ヒアリを燻蒸できる方法の確立が課題となっている。
「ワサビ成分(AITC:アリルイソチオシアネート)」は、強力な防虫効果を持つ天然由来の安全な成分であると知られていたが、その高い揮発性と強い刺激性のため、コンテナ貨物などの燻蒸に使わることはなかった。しかし、最近になり細孔を有する樹脂でワサビ成分をマイクロカプセル化する技術が確立され、ワサビ成分の揮発量と徐放性のコントロールが可能となった。
そこで、研究チームは、マイクロカプセル化わさび成分を含有したペレットとガスバリアー性プラスチック袋を使った簡便な燻蒸方法で、ダンボール箱内のヒアリ働きアリの殺虫効果を検証した。実験の結果、マイクロカプセル化わさびペレットを入れた袋で24時間燻蒸すると、ダンボール箱内のヒアリを完全に殺虫できることがわかった。 さらに、ヒアリ燻蒸殺虫に有効なわさび成分ガスをおよそ2週間にわたって保持できることも示された。
今回の研究結果は、ヒアリが侵入したコンテナ貨物が直接、内陸部の倉庫などに運ばれる事例が発生した場合、誰もが、どこでも、安全に、貨物を燻蒸処理できる方法を示した重要な成果と言える。
また食品にも使用されるワサビ成分は、薬剤による貨物の汚染を懸念することなく使用できる燻蒸剤として、多様な貨物のヒアリ燻蒸や、博物館の収蔵庫・食品倉庫などでの防虫・防カビ管理などに活用されることが期待される。
論文情報:Applied Entomology and Zoology (https://link.springer.com/article/10.1007/s13355-020-00684-9)
大学ジャーナルオンライン:https://univ-journal.jp/32033/